読書:経営センスの論理(前半)
楠木先生の新作、「経営センスの論理」をさっそく読みました。
- 作者: 楠木建
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/04/17
- メディア: 単行本
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同世代、同窓のこの気鋭の戦略学者とは、名著「ストーリーとしての競争戦略」や講演会などでしか接点はありませんが、私の一方的戦略メンターであります。今回の著作も、私の脳髄を心地よく刺激してくれ、あちこちでうなずきながらのめり込んでいきました。
「経営者の論理」
- すぐれた戦略をつくるために一義的に必要なことは何か。それは「センス」としか言いようがない。スキルとセンスを区別して考える必要がある。アナリシス(分析)とシンセシス(綜合)の区別といってもよい。戦略の本質はシンセシスにある。
- センスは他社が「育てる」ものではない。当事者がセンスある人に「育つ」しかない。センスは他動詞ではなく、自動詞だ。
- 商売丸ごとを動かしていくセンスとなると、100人いたら2、3人の本当のセンスある人がいれば十分だ。そういう人に経営をやらせる。戦略をつくらせる。
- 物事に対する好き嫌いを明確にし、好き嫌いについても自意識を持つ。これがセンスの基礎を形成するということは間違いない。ありとあらゆる事象に対して自分の好き嫌いがはっきりしている。そして、その好き嫌いに忠実に行動する。鋭敏な直感やセンスの根っこをたどると、そこにはその人に固有の好き嫌いがある。好き嫌いを自分で意識し、好き嫌いにこだわることによって、経営者としての重要なセンスが磨かれるのではないか。
- 「ハンズオン」。奥座敷に引っこんでないで自ら現場に出る。自分の手でやる。ハンズオンというのは古今東西の優れたリーダー、経営者の重要な条件の一つだと思う。優れたリーダーはなぜハンズオンなのか。自分の事業に対してオーナーシップがあるからに違いない。「俺がこの事業をしている!」というメンタリティー、気構えの問題だ。商売が自分事であれば、自分の眼で見て、自分の手で触り、自分の頭で考え、自分の言葉でコミュニケーションしたくなる。当然の成り行きだ。
- 戦略は「こうなるだろう」という先読み仕事ではない。「こうしよう」という未来に向かった意思の表明だ。
「戦略の論理」
- 経営はどこまでいってもケースバイケース、すべて特殊解。「カテゴリー適用」という何事もカテゴリーに当てはめて安直になっとくしてしまうという思考様式、これが諸悪の根源。ある会社の成功なり失敗の要因を探るなら、その事業の背後にある戦略ストーリーをじっくりと見る必要がある。ただし、そこで読み取れるのはあくまでもその会社の文脈にどっぷりとつかった特殊解なので、そのままでは自分の商売に取り込むことができない。そこから本質を抽出する作業が必要になる。
- 優れた経営者というのは抽出化してストーリーを理解し、その本質を見破る能力に長けている。商売を丸ごとで見て、流れ・動きを把握して、それを論理化することで本質にたどり着くことができる。もともとは具体的な個別の事例が、自分のアタマの引き出しにしまうときには論理化された本質に転換されている。結局のところ本当に役に立つのは、個別の具体的な知識や情報よりも、本質部分で商売を支える論理なのだ。
- イノベーションの本質は「非連続性」にある。「できるかできないか」よりも「思いつくかしかないか」の問題であることが多い。その業界に根づいている「認知された非合理」を乗り越える。ここにイノベーションと進歩の分かれ目がある。技術的に成熟した業界であれば、商売のあらゆることが連続的にしか進んでいかないのが常態だ。だとすればそこにいかに非連続性を組み込むか、ここにイノベーションの焦点がある。
- イノベーションは供給よりも需要に係わる現象。供給側の目で見てどんなに「スゴイ」ものであっても、顧客の心と体が動かなければ、イノベーションではない。未来を予測したり予知する能力など必要ない。いまそこにあるニーズと正面から向き合い、その本質を深く考える。
- 制約や弱点を克服しようとせず、積極的に受け入れることによって、自分の競争優位や劣位についての認識がからりと変わる。制約なり弱点と思われていたものに、思いがけない機会や強みが潜在していることに気づく。これが新しい次元を切り拓き、防御を攻撃に転化させる。
「グローバル化の論理」
- 英語そのもののスキルよりも、コミュニケーションの内容、姿勢、スタイルがものをいう。大切なことは「英語がそれほど上手でもないのにコミュニケーション」はすごい人」を見つけてよく観察することだ。
- 多様性のマネジメントとは、多様性を受け入れることではなく、そのあとの統合の問題に軸足があるのだ。
- 話がグローバルになったときに直面する最大の壁は「言語」と「多様性」ではない。それは、商売丸ごとをリードできる経営人材の希少性である。グローバル化の本質は単に言語や法律が違う国に出て行くということではない。それまでのロジックで必ずしも通用しない未知の状況でビジネスをやるという「非連続性」にこそグローバル化の正体がある。経営とは、商売丸ごとを相手ににするという仕事である。グローバル化には未知の未整備の土地で白紙から商売を興していくという仕事がついて回る。商売丸ごとを動かせる経営人材がいなければ、話にならない。非連続性を乗り越えていける経営人材の見極めは多くの日本企業にとって最重要課題である。逆にいえば、そこさえ克服すれば、次々に可能性がが拓けるはずだ。