anezakimanの部長日記

メーカー部長、中小企業診断士、通訳案内士(英語)、放送大学大学院修士全科生の日々奮闘記

講演会:古き労働慣行が日本をダメにする

先週は人材育成に関するインプット週間でした。日経主催の「働きかたNextシンポジウム」に参加し、併せて開催されていた「Human Capital 2015」展示会(@東京国際フォーラム)でのセミナーも聴きにいきました。

シンポジウムの愁眉はカルビー会長兼CEOの松本晃氏の「古き労働慣行が日本をダメにする」と題した講演でした。淡々とした関西弁の語り口のなかに、経営や人材に対する本質的なメッセージを感じました。

  • 社会人の働き方は、Compensation(報酬)とContribution(貢献)のバランスが基本。成果主義が行き過ぎだと曲解されているが、本来の意味を取り戻すべき。
  • 経営とはすべてのステークホルダーを喜ばせることだが、順番を間違えてはいけない。1. 顧客、取引先、2. 従業員とその家族、3. コミュニティー、4. 株主
  • 社員は何を求めているのか。1. 豊かさ、2. ワクワクする仕事、3. 仕事を通じた成長
  • 人があって組織があって何も産み出されなければ、まず仕組みを作って組織、人と考えていけば成果が出てくる。決して最初に固有名詞だけで考えないこと。
  • 経営の要諦は、Commitment & Accountability(約束と結果責任
  • 事務所は快適だが危険。事務所にいないで外、現場に出ること。事務所に金は落ちていない(カルビーではフリーアドレス制だが毎日席がコンピューターによってランダムに決められる)。
  • Diversity is my lifework. ダイバーシティーのリスクは業績悪いとそのせいにされること。
  • 4時になったら帰ろう、仕事を終えて帰ろう。学んで教養を身につけたり、家族と過したり。一粒で二度おいしい一日を。そうやって人間的に魅力ある人が成果を出すのではないか。現代は規格大量生産ではない、創造的で魅力的な人から人はモノを買いたいのだ。
  • No meeting, no memo(無駄の排除)
  • 私の経営のやり方は、1. 簡素化、2. 透明化、3. 分権化
  • 古き労働慣行が人をダメにし、会社をダメにし、国をダメにしてきた。

松本会長の右腕として、実際の改革仕事をやってこられたカルビー執行役員コーポレートコミュニケーション本部長の後藤綾子氏のセミナーが別の日にあって、突然現れた改革派経営者にどまどいながらも必死についていった奮闘記も興味深かったです。

  • 会長が来てすぐにやったことは棚卸し(仕分け)。経営者や幹部でこれまでの仕事を、1. 良いことだから続ける、2. 良いことだけどできていない、3. すぐにやめた方がいい、の3つに分けて協議し、3はその場で社長即決でやめていった。新しくやるよりも、止めることがずっと簡単で効率的。
  • 会長メッセージはシンプル。例えば簡素化、透明化、分権化や、One dollar out(会社のお金やモノを私的に使ったらそくクビ)。シンプルな言葉で言い続けられると、だんだん社員に浸透してくることを実感。
  • ワークスタイル改革(全社員ワンスペース化、フリーアドレス制に加えて当日コンピューターで席の自動割当など)も社員からの不平不満で大変だったが、会長のメッセージはシンプル。Office is for communication、書類はいくら持っていても一円も生み出さない、人間は横には動くが縦には動かない(階が違うと会わない)、最後は「そんなに嫌だったらフリーアドレス制を取ってない会社はいくらでもあるからそこに移ったら」。
  • 人は理解して納得して行動するもの。改革はその逆で進んでいった。トップの強いコミットメントが重要。さらに人の力より仕組みの力が大きいことを実感。
  • フリーアドレス制も(これも強烈に推進している)ダイバーシティーも、つまりはビジネスが総力戦に入ったということ。すべてはその地盤作りに過ぎない。
  • なりたい姿を描き、それに近づけていく努力を続けていく。

上記カルビー関係以外にも、SCSK社(IT業界ながら残業削減や年休取得の大きな成果を出している会社)の会長、一橋大学経営大学院ICSの先生、日経ビジネスアソシエ編集長、研修会社のカリスマ女性社長、GEの企業内大学クロトンビルでプログラム責任者を務めた田口力氏、そしてリーダーシップ論で有名な野田稔先生の話を聴きました。後者のお二人からのインプットも印象的でした。田口さんの話。

  • 最初のNYでのGEの会議で、上司から言われた言葉。If you stop learning, you have to leave GE.(学ぶことをやめたら、そのとき君はGEを去れ。)
  • GEという会社は日本企業の2倍は早い。さらに最近もっと早くやれとの文化
  • 戦略とは要するに3つ。Product Design、Process Efficiency、Customer Intimate
  • 人を採用する際の最大のポイントは、好奇心があるかだと思う
  • グローバルリーダーの3要件。知力・体力・気力(EQ)、演繹法(さまざまなインプット)と帰納法(経験から教訓を導きだす、自分を振り返る力、Reflection)、そしてSelf-awareness(自分を知る)
  • リーダーシップとは影響力
  • われわれを取り巻く4つの基本的要素。Volatility(不安定性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)。すなわちVUCA(ヴーカ)。この言葉が最初に使われたのは米国陸軍。すなわちこれは戦争と一緒。そのなかでは、70%の情報でも意思決定できる胆力、直感力を磨くことが必要。

野田先生の話のなかでは、以下2つのことが印象的でした。

  • AかBではなくAもBも目指すヘーゲル弁証法的な働き方を目指すべき
  • イノベーションを起こさせる組織の心理的インフラとして楽観性が重要。そしてそれはただポジティブになるのではない、現実を直視し、事実を柔軟に捉え、合理的な思考を持つこと。

自分の会社、組織、そして自分自身で咀嚼して少しでも身につけていきたい考え、思想を多く学ばさせていただきました。