anezakimanの部長日記

メーカー部長、中小企業診断士、通訳案内士(英語)、放送大学大学院修士全科生の日々奮闘記

読書:「好き嫌い」と才能

私の読書の傾向は文学系であれビジネス系であれ、一人の著者を追いかけるよりは、いろいろな作者の乱読多読が基本です。そのなかでもわりと熱心に読んできたのが、文学系では伊集院静氏(ただし純文学系の著作、最近のエッセイシリーズはそこまでではありません)、歴史物では司馬遼太郎氏、そしてビジネス本では、私が勝手に戦略メンターとさせていただいている楠木建教授です。

先生の出世作、『ストーリーとしての競争戦略』から、『戦略読書日記』、『経営センスの論理』、そして『「好き嫌い」と経営』と、学術論文以外はすべて読んできて、今般、『「好き嫌い」と才能』、『好きなようにして下さい』を読みました。後者3冊は、ご自身で「スキスキ3部作」と定義付けされているように、最近提唱されている「好きこそものの上手なれ」、「努力の娯楽化」を突き詰めようとしているシリーズであります。まずは下記から。

「好き嫌い」と才能

「好き嫌い」と才能

 

 本書は、前著『「好き嫌い」と経営』 の続編とも言えるもので、前者の対談相手は経営者14人でしたが、本書は経営者以外にも、元プロ陸上選手の為末大氏、三井物産出身の小説家の磯﨑憲一郎氏、音楽プロデューサー丸山茂雄氏、一橋大学の米倉先生など18人が登場します。

一貫して対談相手の好きなもの、嫌いなものを聞いて、仕事や人生の本質をあぶりだそうとします。以下金言メモ。

  • 自分以外の誰かに必要とされてこその「仕事」。自分のために自分を向いてやることは「趣味」。仕事と趣味を混同してはならないー。そのとおりである。しかし、仕事においてこそ、好き嫌いがものをいう。それが筆者の考えだ。
  • 客観的に見れば大変な努力投入を続けている。しかし、当方本人はそれが理屈抜きに好きなので、主観的にはまったく努力だとは思っていない。むしろ楽しんでいる。すなわち「努力の娯楽化」、これが仕事における最強の論理。(以上、楠木先生)
  • リーダーが引っ張っていく米国のマネジメントは、富士山式経営ですよね。日本はマネージというよりみんなで一丸となってやるから、私は若草山」式経営と言っています。「どこに頂上があるんだ?」というのが若草山(笑)。若草山式経営なら、みんなの力で行くしかないですから。
  • 人材にないものねだりはやめて、良いところを見ていくしかないと思いますね。(以上、宮内義彦氏、オリックス シニア・チェアマン)
  • 今の時代は、わからないことが悪という風潮が強いように感じますね。「要するに、何なのか」が常に求められている。正解がないなかに居続ける余裕みたいなものがなくなっているのかなと思いますね。もちろん、答えが出せるものは、早く出せばいいでしょう。でも、本当に僕らが人生を費やして考え続けなくてはならないものは、答えのない問いです。考えても考えても結局答えは出ないんだけど、考え続けることでしか、近づけない何かなんでしょうね。
  • 段取りができるものはしっかりとやりますが、実は、仕事でも予期しないことが次々と起こるんです。その場その場で対処しなければならないことのほうが、多いような気がします。とすると、実は、小説もサラリーマンとしての仕事も本質的には同じことなんじゃないかと。自分の倫理観、価値観に照らしながら判断する、予期できないことに向き合いながら前に進んでいくという意味で。
  • サラリーマンって、やっぱり好き嫌いを追求することの後ろめたさがどこかにある。本当は、みんなが好き嫌いをもっと仕事の場面で出していかないと、日本の企業社会は次のフェーズには進んでいけないような気がするんですけどね。
  • ようやく個性を前面に出して生きていける時代がやってきた、ということでもあるんですよ。だからこそ自分はどういう人間で、何をやりたいか、何が好きなのか、を深く考える必要が、ますますあるのだと思います。(以上、磯﨑憲一郎氏、小説家)
  • 社長になったとき、人事の本部長もサプライチェーンの本部長もファイナンスの本部長も、全員私の部下になりました。でも、私はその部署で働いたことがない。「経験がないから何も言えないのかな」と思ったのですが、「全部がマーケティングなので、マーケティングの発想で突き詰めれば、おのずと答えが出てくるのではないか」と考えました。「マーケティング=経営」とも考えています。マネジメント(経営)とは、遠く戦前にできた概念で、人を管理することを指していました。ところが今のマネジメントの概念は、基本的にマーケティングをしてどれだけ企業内で付加価値を生み出すか、あるいは企業の外で創造するかということだとね。 (高岡浩三氏、ネスレ日本CEO)
  • 僕がいつもイヤだなあと思っているのは、「横串おじさん」。何かにつけて「組織に横串を刺せ」とか言う。自分のなかに何も構想やストーリーがないのに、組織横断的にコミュニケーションをとっているうちに、そのうち何かが出てくると思っている人です。経営は横串ではなく、縦串の問題だと思います。「まずあなたが縦串刺して下さいよ!」と言いたくなる(笑)。
  • 高岡さんのマーケティング的な視点から出てくる実験は、まさに縦串に相当するものだと思います。マーケティングという機能が他の機能部門と横でやり取りしながら事を進めるのではなく、マーケティングの視点でまず全体を包括するような構想が出てくる。それが商売丸ごとを主導して成果を出す、という流れになっている。
  • 自分が本当に好きで得意なパターンというのは、思ったよりも汎用性があるということ。自分が好きなことを起点に、自分の得意技に絞って磨きをかけていくことが大切だということを再確認しました。(以上、楠木先生)
  • 以前なら、この時点ではここまでは到達しておきたいな、といった目標があったのですが、会社を続けていくにつれて、ゴールが大事なのか、それまでのプロセスが大事なのかが、正直、わからなくなってきた部分があるのです。それで今は、毎日夢中であることが大事ではと考えています。そのためには、行き当たりばったり進んでいくのがいいのではないかと。夢中でいられるために、「行き当たりばったり力」を上げていきたいと思っています。(高島宏平オイシックス代表取締役社長)
  • ミクロとマクロの両方を見るということを最も大切にしています。中間の仕事は人がやってくれますが、いちばん細かい仕事といちばん大きな仕事は、なかなか手がつきづらい。経営者はそこをやるべきだと考えています。(野口実氏、エービーシー・マート代表取締役社長)
  • 日本人は、1億2000万人いるから、そこで最適化をしていまい、いざ外に持っていこうと思ったら、コンパティビリティーがないっていうーそれがダサいと思います。もっとシンプルで、もっと本質的なモノのほうが、世の中では広く使われるわけで、イケている。
  • はやりすたりで終わるようなプロダクトではなくて、人類の底上げに役立つようなものを作らないと、人生の時間を使っている意味がないよね。(以上、仲暁子氏、ウォンテッドリーCEO)
  • 会社という場で、みんながその好き嫌いを共有できれば、それが「局所化された良し悪し」になる。文化というのはそういうことですね。みんなが局所的に良し悪しを共有できる場、ここに市場と違った組織としての会社の本来の存在理由があると思います。会社や仕事生活のなかで、これはイケてるな、ダサいなって言い合えるのは、とっても良いことだと思うんですよ。(楠木先生)
  • 修羅場に置かれたとき、人間はものすごく純化するのですよ。自分のためとか自分の好みという軸はまったくなくなって、「やるか、やらないか」しかなくなる。「下手を打つと銀行が潰れるかも」という緊張感。ギリギリの二者選択という瞬間が無情の緊張感で、生き生きする。「うきうき」じゃないですよ、「生き生き」(笑)。そのときがいちばん考える時です。考えて考えて、ロジックで考えて、最後はロジックを超えて思ったとおりにやる(笑)。これは醍醐味ですよ。(木川眞氏、ヤマトホールディングス代表取締役会長)
  • 仕事には好き嫌いの自己認識を深める旅みたいな面がありますね。やっているうちにだんだん好き嫌いのツボがわかってくる。自分の土俵の輪郭がだんだんと見えてくる。これが仕事生活の醍醐味というかコクのあるところじゃないでしょうか。
  • 自分の芸風を知るとか自分の土俵がわかってくるということは、土俵の外にあるものを捨てるということ。何かを得るということは、常に何かを捨てているわけです。
  • 「好きこそものの上手なれ」の好循環をぶんぶん回して仕事をする。自分の芸風を頼りにされて、その結果、世の中と折り合いがついて、「仕事」になる。これが仕事と仕事生活の理想だと僕は信じています。(以上、楠木先生)