読書:日本企業は何で食っていくのか
- 作者: 伊丹敬之
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2013/05/25
- メディア: 新書
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『経営戦略の論理』、『人本主義経営』などで著名な伊丹先生が、このたび随分直接的なタイトルで本を出されました。新書版ですが読みごたえタップリです。この先いったい我々は「何で食っていくのか」は、日本産業全体、我が業界、そして我が社が今もっとも問われなければならないテーマだと思います。
その主題に対して、日本産業が蓄積としてすでに持っている強みを意識しながら(歴史は飛ばない、しかし加速することはできる)、以下の六つの視座で大いなるポテンシャルを論じます。
- 電力生産性
- ピザ型グローバリゼーション
- 複雑性産業
- インフラ
- 中国
- 化学
我が業界にすべて当てはまる視点であり、特にピザ型グローバリゼーションと複雑性産業は、現在進行形で私が関与している案件に直接的な示唆を与えてくれ、とても刺激されました。
伊丹先生は、日本企業が持つ上記ポテンシャルに期待を寄せる一方で、日本全体を覆う問題にも切り込みます。すなわち平時対応、利害調整、中央志向という三つの組織内力学の病と、産業組織再編が進まないという病(内需がしぼむ日本で誰が考えてもプレーヤーが多すぎ、将来は減っていかざるを得ない)が、日本の産業、企業をむしばんでおり、上記ポテンシャルによる日本企業の浮上を困難にしていると指摘します。
そしてこれら病の本質的原因として、経営者の器量、組織の防衛本能、人々のエネルギー水準の三つを挙げたうえで、最後にこのような「ドツボにはまった状態」からどう抜け出すか、どのようにして突破口を見出すかについて、以下のように主張されています。
こうした状況から抜け出すための論理は、不均衡をあえて作ることだ。それがハーシュマンの不均衡成長の理論である。きれいにバランスのとれた経済発展を目指すよりも、不均衡を出発点にする方が現場にエネルギーが出る、と彼はいうのである。
今の日本にも当てはまる論理だと、私は思う。四の五の言わずに、どこかで突破口を政府が、企業が、まず作る。それは当然、周囲の状況とは摩擦を起こすような突破口であろうが、その突破口を広げる努力、摩擦を小さくするように周囲をも変えていく努力がさまざまな波及効果をもたらし、それがドツボの状態からの脱出を助ける。
御意であります。分不相応ともいえる大型案件を受注する、できないかもしれないような難しい顧客の難しいスペック要求に対応する、資金も人材も薄いのにあえて海外に打って出る、これらはすべて不均衡を作って突破口を切り拓くアプローチだと思うと、勇気百倍となりました。